中国で「マーダーミステリー」が流行している。Role&Roll vol.178の安田均先生の記事「ゲームを斬る」やゲームマスタリーマガジンvol.8の友野詳先生の記事「最新TRPG関連情報」を読んで関心を持っていたところ、大阪のゲームサークルあすたりすく会員N氏が例会に持ち込んで、2回遊ぶ機会を得た。1回目は7月7日、台湾製の『約束の場所へ』。2回目は、8月4日、会員N氏の自作シナリオ(6-8人用、アルファ版)。戦闘ルールや神話伝承の設定などから、『王府百年』を参考にしていると推測される。プレイヤー6人のうち5人は2回とも参加。8月参加のゲストさんには燦々たる1日で申し訳ないことをした。いろいろと残念な結果に終わったが、マーダーミステリー自体には今後の改善/発展の可能性を感じた。また、中国記事の翻訳を見たり、日本でもゲームカフェで遊ばれているとか俳優によるゲーム鑑賞イベントという記事を見ると、ゲームのビジネスモデルの変革とも読み取れる。今後の期待を込めて、感想と気付いた点を書き記したい。
ゲームを楽しめるかには3つの要素がある。1つは、シナリオ完成度。2つめに、適確で公正な進行役。3つ目はメンバー次第。イベントかサークルか、その折衷メンバーかで変動幅や楽しみ方が変わってくる。TRPGの楽しい条件だが「マーダーミステリー」も同様だろう。進行役に関しては、TRPGのゲームマスターやボードゲームのインスト、あるいは会議のファシリテーターで経験を積んでいて、自他共に認めるスキルがあれば十分だろう。
プレイヤー適性は3点考えられる。まず、ミステリ好き。一般開催ではミステリ嫌いが参加しないだろうが、サークル等の場合は人数調整で参加する場合がある。ミステリを楽しむという場の空気感が変わってくる。2番目には、進行手順への慣れ。2回以上参加すれば要領はわかる。初回は馴染みにくい。「人狼ゲーム」等の経験があればハードルが下がる。情報収集・交渉・推理という構成は、TRPG『シノビガミ』『インセイン』に近い点がある。1990年代の遊演体ネットゲームとも似通っている。これらのゲームが好きな人は嗜好が合うだろう。3番目には、外交交渉術。1人で入手できる情報は1/8程度。謎解きのために、他人と交渉して情報交換する必要がある。調査時間には手番などなく、1,2人のプレイヤーと密談する。このあたり『ディプロマシー』の交渉フェイズと似ている(なるほど、秋口ぎぐる先生が推すわけだ)。外交交渉術は慣れていない人には難しい。交渉不得意な思考型プレイヤーが1人で考え込んでしまう状況も起こり得る。
ゲームを楽しめるか最大の鍵は「シナリオの完成度」だ。市販シナリオを読んでいないので、シナリオのバグなのか進行役の不手際か判断が付きにくいが。敢えて重大な欠点を書くと、2回のシナリオにはプレイヤーの遊びやすさの観点が欠けていた(全てのマーダーミステリがそうだと思いたくない)。不条理なルールが3つ。1つめは、TRPGならGMが最初に描写する基本情報がわからない。いま居る建物の見取り図さえ秘密情報なのだ。2つめに、PCの所持品がなぜか失われて、他人が入手した後に交換するという手順を経ないと回収できない。3つ目は、自分の担当キャラ(PC)に関する秘密情報を知らない状態で開始する(8月は少し解消されて、最初に見た後で進行役に没収された)。4つめに、PCのステータスが担当プレイヤーにも隠されている。整合的なルールのもとで遊ぶゲーマーにとっては、理不尽なルールがあると大きな障壁になる。開始前に遊ぶ気が失せる。
次に致命的ではない不適合が3点。1つには、情報量の過不足。シナリオ作者はPC人数分の情報冊子を作成する。全般的な状況設定、PC設定、殺人事件に関するタイムライン、個人の勝利条件などを記載している。情報量が多すぎると把握できないし、少なすぎるとゲーム内状況を理解できない。7月の市販シナリオではフレーバーテキストが多すぎた。N氏自作シナリオでは逆に、簡素すぎて情報不足だった。一般論では「トヨタ式A3情報整理」を聞いたことがある。A3一枚がちょうどいい程度。他にも『1分で話せ』というプレゼン参考書を読んだこともある。2点目に、やはり情報不足。ミステリ謎解きの3要素(1)フーダニット (Whodunit = Who (had) done it) (2)ハウダニット (Howdunit = How (had) done it) (3)ホワイダニット (Whydunit = Why (had) done it) それぞれについて適切に情報を提示しないと解きにくい。シナリオ全体の情報のうち、Who, How, Whyに関わる情報が少なすぎる。3番目に情報入手量。7月の市販シナリオでは一応全情報がプレイヤーに提示された(情報共有するかは別問題として)。だが、N氏自作シナリオでは、約3割の情報が不明のままゲーム解決を迫られた。8月のテストプレイでは偶々正解にたどり着けたが・・・。一方で、外れ情報的なミステリ本筋と関係ないパロディネタも気になった。
今回のことで、サークルの密室卿(自称)という後輩を思い出した。TRPGでミステリを遊ぶことに真摯で公平で真剣だった。3年の研究の後、「ノックスの十戒」「ヴァン・ダインの二十則」を参考に「ミステリーシナリオ二十則」を考案した。サークル会報(2008年3月)に寄稿された記事を抜粋引用する。
------ (以下、引用)---------------------------------------------------------
「密室卿のミステリーシナリオ二十則」
1. ミステリーシナリオの中心は謎解きでなければならない。謎解きが中心でないミステリーシナリオはもはやミステリーシナリオではない。
2. 謎解きの謎はプレイヤーやPCにどこが謎なのかよく分かるように提示しなければならない。
3. 謎解きの手がかりはPCが調査すれば発見されるようにしなければならない。
4. 謎解きの手がかりはPCが謎解きをするまでに出すようにしなければならない。PCが手がかりを手に入れていなければPCを誘導しなければならない。
5. プレイヤーがよく知らない技術や慣習や呪文が謎の鍵になるならば、それを謎解きまでにPC(プレイヤー)に提示しなければならない。
6. 全てのPCとプレイヤーにとってよく分からないものを出してはいけない。どうしても出す場合はGMがきちんと説明しなければならない。
7. GMは状況説明が大変な謎、例えば、複雑な機械的な謎などを出すべきでない。
8. ミステリーシナリオには死体やありえない状況などインパクトとなる物があったほうがいい。
9. 真の犯人は一人のほうが望ましい。ただし、端役の従犯者は除く。
10. プロの犯罪人を犯人にするのは避けるべきである。アマチュアの方が魅力ある犯罪を作り出せるためである。
11. 真犯人の犯罪の動機は恨みや金など個人的な方が良い。また、動機はすごいものほど良い。そしてそれをPCの調査や謎解きの結果判明するとなおのこと良い。
12. 犯人が犯す犯罪は結果として謎にならなければならない。そしてその謎をシナリオの中心にしなければならない。
13. PCたちは謎を率先して解決する探偵、または探偵役でなければならない。
14. PCたちを謎解きに積極的に参加するようなキャラクターに設定するのが望ましい。
15. PCたち名探偵は結果的に知恵を働かせずに事件を解決してはならない。知恵を働かせないPCたちは名探偵ではない。
16. 探偵役のPCは探偵らしい行動を取るべきである。そのために、多少メタ的思考をしてロールプレイしても構わない。
17. プレイヤーやPCたちはシナリオの雰囲気に合わせなければならない。あわせるためなら多少、キャラクターの行動のおかしさは無視すべきである。
18. PC、とくにPC1は最後に皆を集めて「解決編」をやるのが望ましい。ただし、無理にする必要はない。
19. 探偵役のPCは謎を解いて真相を暴き、犯人に到達しなければならない。
20. プレイヤーはGMの出した情報や伏線を書きとめる、暗記するなどして覚えていなければならない。
-----------(引用ここまで)-----------------------------------------------------
この記事はTRPGの話ではあるが、「基本指針」であり、TRPG以外でもミステリのゲームを扱う際には参考にできるはずだ。一方で、密室卿と一緒に遊んだ経験もふまえて、自分は「プレイヤーは名探偵ではない」と下記のように述べていた。
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小説の名探偵は優秀な頭脳を持ったキャラクターである。さらには作者と同等の知識・常識を持ち、同じ思考方法、論理過程から正解に辿り着くことができる。それに対して、プレイヤーは特に謎解きを得意とするわけではない。当たり前だが、GMとプレイヤーは別人である。同じ知識を持たないし、思考形態も異なっている。ゆえに名探偵となり得ない。稀に、似たような趣味を持ち、GMの手の内を読みながら謎解きに挑戦するプレイヤーもいるが、往々にして見当違いをして迷宮に迷い込む場合が多い。
プレイヤーに名探偵の役割を期待してはいけない。
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そのうえで「情報不足でプレイヤーにストレスを与えないよう、積極的な行動に見合っただけの情報を出そう。GMが自分自身では情報を出し過ぎだと思うくらいが、プレイヤーにとってはちょうど良い」と。
ミステリの参考として、下記の作品を挙げていた(2008年当時の記事より抜粋)。
ドラマ『科捜研の女』『トリック』『ガリレオ』、『必殺!仕事人』シリーズ、映画『チーム・バチスタの栄光』『八つ墓村』『犬神家の一族』、小説『百器徒然袋 雨』『心理試験』
最後に。イベント等で初対面メンバーで遊ぶ場合には、リテラシーの擦り合わせが必要だろう。「私の常識は、あなたの非常識」という言葉がある。ゲームだけでなく、コミュニケーションが関わる全ての場面において大事なことだ。アイスブレイクも兼ねて、質問することで互いに確認すると良いのではないか(元ネタは朱鷺田祐介先生のブログ「黒い森の祠」参考)。
1:名前(ニックネームで可)
2:TRPGやボードゲーム、人狼ゲームなどの経験
3:好きなゲーム
4:探偵物語/ミステリーと言ったら?
以上。長文になってしまったが。一度でいいから面白いマーダーミステリを遊んでみたいという想いから、過去2回の参加経験を振り返ってみた。